「出雲、学校どうだった?」
夕飯を食べていると父さんが聞いてきた。
今日のご飯は何故かお赤飯。
美味しいから良いけど。
「おもしろかった。友達もできた」
「そうかそうか。それは良かった」
僕の返事に父さんもにこにこ笑う。
「そうだ出雲。お前に舞台の話が来てるんだが……」
「演目は?」
「鳴神だ」
お、大人な演目だ。
「配役は?」
父さんがピラッと紙を見せてきた。
僕の役は雲の絶間姫。
復活したばっかりなのに大役。
ちょっと不安。
相手の鳴神上人は……
「やりたくない」
「何で!?」
「栂敷くん、嫌」
「小さい頃は仲良かったじゃないか」
「そんな過去、消えてなくなりました」
「ええええええええ」
お赤飯、おかわりしよ。
「出雲〜。もしもヒマだったら、一回稽古場見学しに来いよ」
「それで、もっかい出るか出ないか決めてくれないか?」
ま、見るだけならいっか。
翌日、兄弟子たちに連れられて稽古場に行った。
やりたくなるかもしれないだろって春一と秋彦が言うから一応稽古着を着ている。
「出雲くんじゃないか!」
「大きくなったねー」
「おかえりー」
「この前の夕霧役、代役とはいえすごくよかったよ」
「まったくブランクを感じさせないどころか、ますます上手くなってたなぁ」
「……………………」
「相変わらずの無口だなぁ」
「そんなことより栂敷くんはまだ?」
「彼はまだ来てないかな……」
「チッ。若手が遅刻なんかしてんじゃねぇよ…」
「ひっ!」
御曹司だからってやっていいことと悪いことの区別もつかないのか。
それから一時間後に栂敷くんは来た。
「…やあ、みんな…ボクに会いたかったかい…?」
「なめてんのかテメェ」
やっと来た栂敷くんを蹴り飛ばして倒れたところで背中に乗る。
「く、國崎くん!!」
「やる気がないなら降りろカス」
「キミがボクの上から降りてくれないか!?」
渋々栂敷くんの上から降りた。
「フ…しかしキミが本当に國崎屋の役者だったとはね…。どうやら今回、ボクの相手役に選ばれたらしいけど…」
「遅刻するような人とやりたくないんだけど、一応見学して実力を見てから決める」
「キミらしいね。でも昔のボクとは違う。キミのライバルになるため頑張ってきたんだよ。歌舞伎から離れていたキミとは違う。今のボクはキミを越えている!」
「…そうじゃなきゃね」
大口叩いたんだから下手な芝居見せないでよね。
「やってくれるの…?」
キョトンとする父さんに向かって頷く。
見学の感想は、たしかに上手くはなっていたけどギリギリ合格レベル。
やっぱりアイツには遠く及ばない。
早く復活しないかなぁ。
謹慎って何したんだろ。
「でも、僕は8年のブランクがあって、舞台まであと四日しかない。で、父さんにお願いがあるんだ」
「何だ? 何でも聞いてやるぞ〜」
「加賀斗さんに稽古つけてもらいたい」
「出雲、起きて」
ズボッ
ハッ!
また寝てたようだ。
「出雲は燃費悪いねぇ。今日はここまでにしとこう。出雲は飲み込み早いし、このペースでも大丈夫」
「ごめんね。お腹すくとどうしても寝ちゃうみたい…」
「体質だからしょうがないよ」
「でも、せっかく教えてもらってるのに…。体質は治せないから、おわび、する」
「いいよ。気にしないで」
「でも…」
「……じゃあ、」
「?」
「一緒に寝よ?」
「!」
「出雲、体温高いからよく眠れそう。いい?」
なるほど。
僕はコクリと頷いた。
(「グッモーニーン、出雲!?」)
(「師匠うるさいんですけど、いつもこんな某脱色に出てくる死神代行の父親みたいな起こし方してるんですか?」)
(「何で加賀斗が!?」)
(「出雲が良いって言ったんですよ?」)